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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

その点は伸子も同感であった。

佃が隠して電話さえかけなかったら、彼女も、何とか少しは彼の威厳も傷けない行動をとらせることができたのだ。今でも、伸子には、なぜ夫が自分に黙ってそんなことをしたか、心持が理解出来ず、居心地わるかった。

「今度のことに限らず、佃さんのすることは正々堂々としていないよ――、古いことを云い出すようだが、引越しの時にしろ、なぜ、いつもお前をお先棒に使うのだろう。――あの時だって、私どもはずいぶん不愉快だった。佃さん、自分じゃ出入りしないが、必要とあればいつもお前を先に立てて、こちらを利用するじゃないの――私どもは、お前が、今夜だってそうやって、お人好しに遙々よこされて来るのを見れば、厭だと云えやしないじゃないか」

引越しの時、と云うのはこういう訳だ。片町の、あの西日の壁まで差し込む家に、彼らは二月まで暮したが、ある日、よろず案内で、赤坂の便利な位置に、やすくて手頃な貸家のあるのを見つけた。佃の勤め先に近くもあったので、伸子らは直ぐ見に行った。電車から一町あまりしか離れていないが、静かな裏通りの垣に蔓がからんでいる古い家であった。