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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

彼はまた、さあと躊躇したのち不明瞭に答えた。

「特別大事というようなことが云えるかどうか分りません。ドクタア・フォセトは公平な人ですから――しかし数がないし、滅多にこんな学課をとる者はありませんから――とにかくよく飽きずにやっていると思っているでしょう」

「――貴方この間、仏蘭西へ行こうとしたとおっしゃったでしょう?……その時先生は何ておっしゃいまして?」

伸子は、ききながらまっすぐに佃の顔を見、

「それはいい、すぐ行けとおっしゃって?」

と云ったがまるで詰問でもするような調子なのにふと間の悪い顔をして、弁解した。

「いろいろ伺って失礼だけれど……」

佃は、別に感情を害したらしくもなく、むしろ伸子があっけなく感じた平坦さで答えた。

「ドクタア・フォセトは別に何とも云われませんでした。先生は、私が一旦云い出したらきかないことを知っておられますから――」

そして彼は、それが本当の親切だと信じている風で、

「夫人が大変よろこんで、わざわざ毛糸で編んだものなどを贈ってくれました」

とつけ加えた。

「…………」

伸子には、教授夫人の鼓舞が、ありふれた愛国主義者の婦人らしくて不愉快に思えた。