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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
と、鋭い疑問を自分に感じ、気が遠くなるような苦しさを覚えた。佃は、先達て、佐々から帰って自分の云った言葉が、どんなに伸子の心に致命的なものであったか、全く心づかないらしかった。伸子は、あれから、一層明らかに佃と自分との生活の裂目を感じ通しで、不安が続いた。深いところから湧く「こうしていていいのか」と云う疑いは、空中に囁かれる声のように、屡々、思いがけぬところで、彼女の心を掴んだ。それを感じると、二つ三つ息をする間、伸子は自分がいる場所、していることの知覚を失うような内面の緊張に捕われた。
独りでいると、その疑問はなお大声で叫んだ。直ぐ返答を要求して、伸子を攻めたてた。伸子の理性は、それに対する答えを出していた。けれども、まるで逆な力があって、自分に向ってさえも、それを言明させまいとする。――しかし、伸子は、佃の妻として生きることの恐怖を新たにした。彼女は、こういう状態が一生つづくと思うのさえ、恐ろしかった。
晩春らしく、埃っぽい風の吹く午後であった。雨戸のしまった隣りの家の軒下に、何か小さい赤い布が乾してある。暖かく、乾いた風が吹くごとに、細い竹竿ごとその赤いきれが動いた。