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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
夜の空まで瀰漫する都会の巨大などよめきを貫いて、キロロロロロ……と自動車の警笛が聞えた。燈柱の下で夕刊を呼び売する子供の「パイパア、パイパア」と云う甲高い声がとぎれとぎれ聞えて来る。――ホームスパンの男は、手早く書類をまとめて自分の黄色い手提げ鞄にしまった。そして、二言三言佐々と話し、伸子に遠くから挨拶すると、遽しく気取って出て行った。佐々は戸口までその男を見送った。
戻って来ると、彼はうまそうに葉巻の煙を吹いた。
「さて――そろそろ出かけますかな」
伸子は窓際を離れ、傍の長椅子に来てかけながら、訊いた。
「ほんとにいらっしゃるつもり?」
「どうして? お前も行くんだろう? そう返事をしてありますよ」
「私――やめたいわ」
「なぜ?」
「くたびれているの。――それに……あまり面白くもなさそうじゃないの」
「ふむ……」
佐々は、暫く黙って自分の吐く煙を眺めていたが、やがて徐ろに云った。
「着物なんぞはそのままで結構なんだからおいで。――行けば何かしら行っただけのことはあるものだ。それに儂のいるうちできるだけ人も知って置かないと、いざという時一人で困るよ」
今夜、彼女は父と二人、日本人の学生倶楽部で催されるある集り、茶話会のようなものに招かれていた。