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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
先生の訪問によって、事態が一変しそうな不安、まだ、そこまでは決定的でありたくない未練。遂には同じ結果になるにしろ、先生の言葉に従ってしたことだと、後でその意識に苦しみそうな自分の性分。理窟から云えば、抑々それならなぜ、何の責任もない柚木先生にそんな手紙を出したか、ということになった。書きながら、泣いて自分の苦しみと憧れとを訴えずにいられなかった心持、それも、伸子は自分を偽っていたのではなかった。心が、燃えて、燃えて、我慢できずにそれを命じたのだ。それかと云って、現在の、この踏んぎりのつかない、無いとわかりきっている筈だのに、何か大切なものを見失うのではあるまいかと、今更遅疑する心の状態も、嘘ではない。動かせない本心の両端なのであった。
翌朝、約束の時間に先生が見えると、伸子は、いよいよ愚かな気後れを感じた。いっそ、病気にでもなってしまいたい気がした。片方の足を厚ぼったく繃帯し、そのように萎れている伸子が惨めな有様に見えたのだろう、先生は、老年で幾分嗄がれたが、生彩のある音声で、懇ろに彼女の健康を尋ねた。
「うるさいものです、宅の家内なぞも、矢張りそれに類似のもので永く困却しました。