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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「大したことでないにはきまっているけれど、もう横におなりなさい」
佃はすっかり悄れ、伸子の云うなりになって床についた。
「さあ、元気を出して! 昔の人みたいな考え方は駄目よ。もしそうなら水野さんのお弟子にならなけりゃ」
水野というのは、紐育で知り合いになった高等工業の教授であった。染色研究に来ているうち、肺を冒され、ひどい喀血をした。彼はすぐハドソン河向うの療養所に入り、一年模範的な休養をして、すっかり固めた。十月中旬市に帰って来た時、伸子も初めて紹介された。その時、彼はひさびさで日本語を話す愉快さと、一つの事業をなしとげた人間の計りしれない満足とをもって、一晩じゅう、自分の病気と最新の手当、経過などを彼らに話して聞かせた。
その時の話の中から覚えるともなく覚えていた注意によって、伸子は佃の床の中に湯たんぽを入れ、火鉢を部屋から出した。そんなことをしながら、彼女は、水野が、
「庭にラズベリーの繁みがありましてね、雪が積ると駒鳥が遊びに来い来いしましたよ」
と、いかにもその光景に慰安されたらしく、追懐して話した調子を思い出した。
五
伸子は自分の机にかえって、津山へやる手紙を書いた。