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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

――自分の内に、佃の受けるだろう同情(世俗的なものとわかり、本当の価値は認めない癖に)に対する嫉妬があるらしく、それを思うと伸子は我を卑んだ。

ふらりとそこへ素子が、訪ねて来た。伸子は意外な、嬉しさを感じた。先夜、近いうちに行きましょう、訪ねましょうと別れたのであったが、素子が約束を、そう早く果そうとは思っていなかった。

「――やっぱり先を越されたわね」

「不精なんですね、あなたも……」

「ひどいの」

上りながら、素子が、

「いそがしいんですか」

と訊いた。

「もう暇よ」

「少し出ませんか。もしよかったら散歩に誘おうと思って来たんだけれど」

伸子は素子に待って貰い、支度をして家を出た。日傘なしでは眩しいくらい快晴であった。二人は昼飯前であったので、初め銀座に行った。軽い食事をすませ、素子が用事のあるK新聞によってから、帝国ホテルの横を通って日比谷公園に入った。

「日比谷は珍しいわ。何年来ないかしら……」

素子がびっくりしたように聞きとがめた。

「――そんなに出ないんですか?」

「こんなところ、一人でてくてく歩いたって仕様がないようなもんじゃないの」

内幸町から入る門の附近には、まだバラックが大通りの樹蔭に軒を並べていた。