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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
三
伸子には佃の苦痛が理解された。彼は三十五歳だということや、極めて貧乏だということや、地位のないということ、あまりいい評判でもないということ、それらを気にやんでいるのであった。それらのことに煩わされつつ、彼は伸子の若々しい熱にひかされる自分を苦しみ、自分の自信なさに苦しみ、幾重にも苦しい心持なのに違いないのであった。伸子は、どうかして自分の心を燃え移らせ、互に堂々とした生活に入りたいと思った。彼らにとって路はもう前にしか明いていないのは分っていた。――佃は、しかしどうしたら安心し、ここまで来た感情を彼女とともに健かに育ててゆけるのであろうか。
考えて来ると、伸子の眼に涙が浮んだ。彼も結婚しなければ承知できないのであろうか。
三
人々は皆結婚する。男も女も結婚する。結婚ということは、人間に眼と鼻とがあるように当然な人生の一つの約束のように行われる。伸子はそれに対して何だかぼんやりした質疑とでも云うものを抱いているのであった。人間が家庭を欲する心持、また愛し合う男女がともに生活したく思い、一組として扱われたい心持の強いこと、それらは彼女にもわかった。佃に対して、伸子は、中世的なプラトニックな感情だけでいるのではなかった。