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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
医員は目を閉じて、幽かに肯いて見せた。終焉の合図であった。京子はそれと知るや夫人の胸に顔を埋めて咽び泣いた。新一は土のように青ざめた顔で、じっと目の前の空間を見据えながら、声を呑んだ。
十分間、二人は何事を為し、何事を考える力もなく、そこに坐ったまま身動きもしなかったが、医員の立ち去る物音に、新一はハッと目醒めたように死者の顔を眺めた。そこには医員の手によって白布が被せられてあった。薄い白布を通して、亡き人の面影がまざまざと浮かび上っていた。
新一はソッと立ち上って、患者の間を縫いながら、人なき片隅へ歩いて行った。大穴のあいた天井の下、コンクリートの破片や木片などの無残に散乱した一隅に佇んで、うしろを振返った。そこに京子の涙で洗われた美しい顔があった。彼女も何とはなく新一のあとにつづいてここまで来たのである。
新一はそこに転がっている大きなコンクリートの破片に腰をおろした。そして、しばらくうなだれていたが、やがて、何を考えたのかヒョイと顔を上げたかと思うと、血走った目で自分の左の手の平を見つめた。そして、その手の平を側のコンクリートの破片の上にのせ、右手でその辺に落ち散っている小さなコンクリートの塊りを拾い上げると、いきなり、烈しい勢いで左の手の指に叩きつけた。