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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

五十嵐博士はそういう意味では理想的の人物だったのです。お母さんは、日夜飛行機の研究に没頭している博士の傍らで、まったく別個の生活をいとなんでいた。新一君を生粋のアメリカ人に、日本侵略の隠密の先駆者に育て上げるために、情熱と精根とを傾けていたのです。

しかるに偶然にも夫五十嵐博士はアメリカに取ってもっとも恐るべき武器の発明者となり、その発明が今にも完成するという危険に際会した。だがお母さんは決して惑わず、永年連れ添う夫を祖国の犠牲に捧げる決意をしたのです。

こうして犯罪史上に前例のない恐ろしい罪が企てられた。お母さんと新一君とは、その罪の遂行のために知嚢を絞り、夜となく昼となく密議をこらした。そしてこの驚くべき幻術が構成せられたのです。幻術は二つの大きな要素から成り立っていた。一つは世間が五十嵐博士と新一君とを真の親子と信じ何らの疑いをもっていないという屈強の要素であった。これこそ君達の幻術の基底をなすところの比類のない条件であった。しかしそれだけではまだ不十分だ。この陰謀にはもっと磨きがかけられなければならなかった。そこで第二の要素として完全無欠のアリバイが考案せられた。