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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

若し昼間だったら、この幻術は到底成功しなかった。淡い月光の中だったからこそ、あなたの目をあざむくことが出来たのです。あの時窓から半身を乗り出して救いを求めたのは、本当の五十嵐博士ではなかった。博士はすでに意識を失って部屋の中に倒れていたのです」

「でも、でも、あれは確かに……」

京子の声はまったく生彩を失っていた。独言のような呟きにすぎなかった。

「京子さん、月光の中で博士の身代りをつとめた人物は一体何者だと思いますか。意外な人です。しかしよく考えて見れば、その人の外にこの役目を果し得る人物はいなかったのです。……それはね、五十嵐博士夫人です。新一君のお母さんだったのですよ」

彫像のように身動きもしなかった新一青年がこの時カタンと音をさせて膝を組み直した。

京子はもう黙っていた。一切が彼女にも分りかけて来たのである。

「新一君のお母さんは日本人の顔を持った生粋のアメリカ人であった。祖父ブウリーと父新太郎の血を受けついだ生得のスパイであった。無論お母さんは五十嵐博士に再婚する時、今日あるを予知していたわけではない。お母さんにして見れば、新一君を立派なスパイに仕上げてゆくのに邪魔にならないような、家事にうとい学者肌の夫を選ぶ必要があった。