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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

前にも言った通り私は若い婦人を見かけると、評点をつけて置く習慣になっていた。蕎麦切りを戴きながら、令嬢を六十五点とつけたが、辞し去る頃、少し酷だと思って、七十点に改めた。

こんな次第で河原老人は特別関係だったが、他の同僚とも追々懇意になった。殊に英語の同僚は交渉が多いから、否応ない。何んな人間がいるだろうと思って多少不安でやって来たが、渡る世間に鬼はない。附き合って見ると、皆善意のある連中だった。初任地だから印象が深い。現今私には中学時代の友達と明治学園時代の友達とこの錚々館時代の友達がある。皆特別保護建造物だ。これから再び出来るものでない。私は下戸だから、古い葡萄酒の味は分らないが、古い友達の有難さは人一倍に感じている。

英語の柴田君は今でも東京へ来ると必ず寄ってくれる。この男は私より二つ上で一番若かったが、私に株を奪われたのである。

「しかし僕も来た時は君と同じことだった」

と言って、自ら慰めていた。差当りは通り一遍の交際だったが、柴田君の性質として、それでは満足出来ない。

「僕は仲が好くなるか悪くなるか何方かだよ」

と極端な男だ。

「おい、河原君、結着をつけよう」