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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
但し家へ来たのでなく、旅館から学校へ電話をかけて、私に出頭を命じたのである。昔は兎に角、今は身分が違うから仕方がない。
「赤羽だよ。赤羽明。群馬県の産」
と名乗り丈けは昔の通りだった。
「はあ/\。赤羽君ですか?」
「うむ」
「それは/\。珍らしいですな」
「シナ忠にいる。直ぐやって来ないか?」
「上りましょう。丁度授業が終ったところです」
と私は何うしても対等の調子が出なかった。貧乏していると金力の威圧を感じ易い。シナ忠旅館に出頭した私の背広姿は見すぼらしかった。田舎町だと中学校の奏任教諭は相応顔を見知られているが、名古屋辺では保険の勧誘員ぐらいにしか扱われない。私は応接間へ通されたきり一時間近く待たされた。先客が二人控えていたから順番で赤羽君の部屋へ呼び出される。
「やあ、待ったぜ」
と赤羽君が言った。
「僕こそ待ったよ」
「何処で?」
「応接間で」
「早く然う言えば宜いのに。今の連中は勝手にやって来たんだ。有象無象が詰めかけて困るんだよ」
「ふうむ」
と私は感心して、
「久しぶりだね」
と直ぐに寛いだ。
「死んでいるか生きているかと一寸思いついたんだよ」
「御無沙汰した」