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かちうんまけうん
勝ち運負け運
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页
「金子君、好いところでお目にかゝりましたな」
「はあ」
「お話申上げたいことがあるんです」
と河原君は僕を食堂へ誘い込んだ。こんなのに御馳走して貰うと後が恐ろしいと思ったが、紅茶だけだったから、引き廻しに委せた。
「何か御用ですか?」
「妙なことを伺いますが、君は市岡の豊子さんと何かお約束があるんですか?」
「さあ。ありません」
「それじゃ僕が豊子さんに結婚を申込みます。御異存はありますまいね?」
「さあ」
と僕は行き詰まった。突如だから返答に困る。
「お約束がなければ御異存のある筈はありません」
「はあ」
「君は未だ予科でしょう?」
「はあ。今度本科になるんですけれど」
「僕はもう卒業です。論文の方が忙しいですから、これで失敬します」
と言って、河原君は行ってしまった。紅茶一杯で豊子さんを横領する料簡だった。
僕は直ぐに帰って、菊太郎君を訪れた。豊子さんが居合せたから、
「君、豊子さん」
と両方を呼びかけた。聊か興奮している。
「何だい?」
「今三越で烏に会った。君はズドンと一発やってくれたのかい?」
「やったよ。しかし利かない。何しろカーヴから原則が編み出せると思うくらいの独り好がりだ」