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ぜんのけんきゅう

善の研究

西田 幾多郎

「善の研究」弘道館、1911(明治44)年2月6日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,777 字 · 243 页

青空文庫

一言にていえば、我々の精神が完全の状態即ち統一の状態にある時が快楽であって、不完全の状態即ち分裂の状態にある時が苦痛である。右にいった如く精神は実在の統一作用であるが、統一の裏面には必ず矛盾衝突を伴う。この矛盾衝突の場合には常に苦痛である、無限なる統一的活動は直にこの矛盾衝突を脱して更に一層大なる統一に達せんとするのである。この時我々の心に種々の欲望を生じ理想を生ずる。而してこの一層大なる統一に達し得たる時即ち我々の欲望または理想を満足し得た時は快楽となるのである。故に快楽の一面には必ず苦痛あり、苦痛の一面には必ず快楽が伴う、かくして人心は絶対に快楽に達することはできまいが、ただ努めて客観的となり自然と一致する時には無限の幸福を保つことができる。

心理学者は我々の生活を助くる者が快楽であって、これを妨ぐる者が苦痛であるという。生活とは生物の本性の発展であって、即ち自己の統一の維持である、やはり統一を助くる者が快楽で、これを害する者が苦痛であるというのと同一である。

前にいったように精神は実在の統一作用であって、大なる精神は自然と一致するのであるから、我々は小なる自己を以て自己となす時には苦痛多く、自己が大きくなり客観的自然と一致するに従って幸福となるのである。