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ぜんのけんきゅう

善の研究

西田 幾多郎

「善の研究」弘道館、1911(明治44)年2月6日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,777 字 · 243 页

青空文庫

たとい高尚なる意志の発達は同時に生活作用の隆盛を伴うものとしても、最上の目的は前者にありて後者にあるのではあるまい。後者はかえって前者の手段と考えねばならぬのであろう。しかし姑くこれらの議論は後にして、もし科学者のいうように我々の意志は有機体の物質的作用より起る者とするならば、物質は如何なる能力を有するものと仮定せねばならぬであろうか。有機体の合目的運動が物質より起るというには二つの考え方がある。一つは自然を合目的なる者と見て、生物の種子においての如く、物質の中にも合目的力を潜勢的に含んでおらねばならぬとするので、一つは物質は単に機械力をのみ具するものと見て、合目的なる自然現象は凡て偶然に起るものとするのである。厳密なる科学者の見解はむしろ後者にあるのであるが、余はこの二つの見解が同一の考え方であって、決してその根柢までを異にせるものではないと思う。後者の見解にしてもどこかに或一定不変の現象を起す力があると仮定せねばならぬ。機械的運動を生ずるにはこれを生ずる力が物体の中に潜在すると仮定せねばならぬ。かくいいうるならば、何故に同じ理由に由りて有機体の合目的力を物体の中に潜在すると考えることができぬか。