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ぜんのけんきゅう
善の研究
西田 幾多郎
「善の研究」弘道館、1911(明治44)年2月6日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,777 字 · 243 页
我々は単にこれにて満足はできぬ。個人において絶対の満足を与える者は自己の個人性の実現である。即ち他人に模倣のできない自家の特色を実行の上に発揮するのである。個人性の発揮ということはその人の天賦境遇の如何に関せず誰にでもできることである。いかなる人間でも皆各その顔の異なるように、他人の模倣のできない一あって二なき特色をもっているのである。而してこの実現は各人に無上の満足を与え、また宇宙進化の上に欠くべからざる一員とならしむるのである。従来世人はあまり個人的善ということに重きを置いておらぬ。しかし余は個人の善ということは最も大切なるもので、凡て他の善の基礎となるであろうと思う。真に偉人とはその事業の偉大なるが為に偉大なるのではなく、強大なる個人性を発揮した為である。高い処に登って呼べばその声は遠い処に達するであろうが、そは声が大きいのではない、立つ処が高いからである。余は自己の本分を忘れ徒らに他の為に奔走した人よりも、能く自分の本色を発揮した人が偉大であると思う。
しかし余がここに個人的善というのは私利私欲ということとは異なっている。個人主義と利己主義とは厳しく区別しおかねばならぬ。