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ぜんのけんきゅう

善の研究

西田 幾多郎

「善の研究」弘道館、1911(明治44)年2月6日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,777 字 · 243 页

青空文庫

これらの事実は皆人心の根柢には知識と情意との一致を求むる深き要求のある事を証明するのである。欧州の思想の発達について見ても、古代の哲学でソクラテース、プラトーを始とし教訓の目的が主となっている。近代において知識の方が特に長足の進歩をなすと共に知識と情意との統一が困難になり、この両方面が相分れるような傾向ができた。しかしこれは人心本来の要求に合うた者ではない。

今もし真の実在を理解し、天地人生の真面目を知ろうと思うたならば、疑いうるだけ疑って、凡ての人工的仮定を去り、疑うにももはや疑いようのない、直接の知識を本として出立せねばならぬ。我々の常識では意識を離れて外界に物が存在し、意識の背後には心なる物があって色々の働をなすように考えている。またこの考が凡ての人の行為の基礎ともなっている。しかし物心の独立的存在などということは我々の思惟の要求に由りて仮定したまでで、いくらも疑えば疑いうる余地があるのである。その外科学というような者も、何か仮定的知識の上に築き上げられた者で、実在の最深なる説明を目的とした者ではない。またこれを目的としている哲学の中にも充分に批判的でなく、在来の仮定を基礎として深く疑わない者が多い。