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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

仕方がなかったので、

「怒ってるの……? びっくりしたの……? 君は僕がきらいだろう……? もう絶交する……?」

とりとめのないことを言いながら、冴子の顔を覗きこんで、優しく抱いていた。

「どうして、そんなことおっしゃるの……?」

「…………」

信吉はしばらく黙っていたが、やがて、

「じゃ、僕が好きなの……?」

という言葉を、やっと発見した。

「判らないわ。何も判らないわ」

「好きかきらいか、それも判らない……?」

「好きよ。好きでなかったら、あんなこと……。あたし、今までベーゼなんか……」

したことないわと、冴子はいきなりベッドの上へ泣き伏した。が、信吉が抱き起すと、涙はすぐとまった。

「本当にはじめて……?」

「あたし、露悪家ぶったり、不良少女みたいに男の子に取り巻かれて、銀座をのし歩いたりしたこともあるわ。でも、こんなことはじめてよ」

そして、想い出したように、またふるえ出した。

そうだったのかと信吉は感に打たれた。

女の品行というものは、男が思っている以上にみだれているが、同時にまた、男が思っている以上に、清潔だ。冴子は劇団にはいるまえには、撮影所にいたこともあり、もう何年も女優生活をしていて、そういうチャンスの最も多い環境だったのに、清潔で来たとは、ふしぎであった。