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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

だから、この表情のニュアンスを知ることは、信吉あるいは信吉的要素を持った現代の青年を理解するのに、必要缺くべからざるアプリオリとも、言えば言えるのである。

では、信吉のその表情は、そもそも何に原因するのか、そして何を意味するのか。

観念的に言えば、それは信吉の良心の苛責ということになるだろうが、しかし、……、いや思えば作者はいくらか先廻りし過ぎた。信吉のその表情の意味は、冴子が明日信吉のホテルへ訪ねて来てから説明した方が、もっとはっきりするのではなかろうか。――先を急ごう。

舞台では、まだ信吉の書いた芝居がつづいていた。最後の幕には、もう一度冴子が出る。

しかし、信吉はもう客席や監事部屋へ行って、芝居を見ようという気はなかった。冴子の楽屋を出ると、すぐ劇場を飛び出した。

頭取部屋の時計は、八時を過ぎていた。

「午後八時、三三三号室!」

到頭おくれてしまった。だから、急いで帰っても仕方がなかったが、木挽町で空のタクシーを拾うと、真っ直ぐ第一ホテルへ帰った。

ロビイの受付で、鍵を貰う時、

「三百三十三号室への伝信、渡してくれた……?」

と、きくと、たしかにお部屋へ届けましたという返辞だった。