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てんのう
天皇
蜷川 新
誰が日本民族の主人であるか
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 136,036 字 · 269 页
していたのは、不公正であり、卑怯であった。それは、ただたんに、皇室へのへつらいであった。今日からは、かかる不公正の見解を、日本人から一掃すべきである。皇室本位の史論は、人物の判断をあやまらしめる。
蘇我氏は、人をつかって天皇崇峻を殺させた。それは、蘇我氏から見れば、自衛の行動であった。もとをただせば、天皇崇峻が蘇我馬子を殺そうと企てたからであった。厩戸皇子は、天皇に忠言してそれを思いとどまらせたが、そのことが、皇子の側から蘇我氏に告げられ、逆に、天皇が殺されたのである。徳川時代の学者安積艮斎も、そう論じている。
天皇は、大きな功労のある大臣を殺す権利をもっていたという理由はない。後世の歴史には、蘇我氏が専横であったから、それを殺そうとしたのだということのみが伝えられている。しかし、何が専横であったかは明らかでない。蘇我氏は、忠孝の教えを奉ずる人ではなかったであろうが、仏教の教える慈悲は、重んじたにちがいない。
蘇我氏は、ただたんに、好奇心をもって、仏像をつくったり、寺を建てたり、僧侶を養成したりして、それで満足していたと解すべき史実はない。そのような想像をすることさえも、意味のないことである。