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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
三吉は今度のお検べには、何もかも白状すると云っています」
黒瀬は少し離れて待受けていた二人の方へ戻りながら云った。
捜査課長はこの吉報にひどく喜んで、お礼を云った。
黒瀬は何かもじもじしていたが、
「洗面所はどちらでしょうか」
と尋ねた。
捜査課長はドアの外へ出て、その所在を教えた。黒瀬はさいぜんから我慢していたものと見え、妙な走り方をして、その方へ急いで行った。
そして、それっ切、この怪画家は再び姿を見せなかったのだ。洗面所へ行くと見せかけて、どこかへ逃出してしまったのだ。
一方檻の中でも妙な事が起っていた。
「オイ、三吉、何をしている。どうしたんだ」
捜査課長が驚いて檻に駈け寄り、又コツコツと、その縁を靴で蹴った。
だが、今度はゴリラは何の反応も示さなかった。彼は長々と横たわって鼾をかいていた。顔が真青になって、額にビッショリ汗の玉が浮いていた。
「今話をしていた奴が、もう寝入っている。何ということだ。コラ、起きぬか、起きぬか」
S氏は鉄棒の間から手をさし入れて、転がっているゴリラの身体を烈しくゆすぶった。だが少しも手ごたえがない。まるで死んだ様だった。