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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

闇を走る怪獣

そうだこのけだものはねや淋しくなったのだ。第二の死骸を娶ろうとしているのだ。莫大な持参金と諸共に。

彼奴、今度は、どの様な恐ろしい婚礼の儀式を営むことであろう。

闇を走る怪獣

「恐怖王」と自称する怪賊の正体は、少しも分っていない。

読者は嘗つて、布引照子の死顔に奇妙なお化粧を施した一人物を知っている。それは黒い洋服を着た、青白い顔の小柄の男で、美術家の様にフサフサした長髪を肩の辺まで垂れていた。若しかしたら、あの男こそ「恐怖王」その人ではなかったか。彼が相棒のゴリラ男に、部下に対する様な口を利いていた所を見ると、どうやらこの想像は当っていそうだ。併し、あの長髪の怪人物は、その後一度も我々の前に姿を見せぬ。

ただ我々が知っているのは、賊の部下に相違ないゴリラ男の奇怪なる行動ばかりだ。彼奴は伯爵令嬢花園京子を、不思議なやり方で殺害した。殺害したばかりではない。その死骸を小脇に抱て、いずくともなく逃げ去った。

ゴリラ男はどこへ行ったか。花園京子の死骸はどうなったか。無論警察では手を尽して捜索したのだけれど、その晩は勿論、翌日になっても、賊の行衛は全く分らなかった。