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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
尾行曲線
最後のoを描き終った頃には、初めのKはボヤッと拡がって、形がくずれかけていたけれど、それ丈けに、思わず腋の下から油汗がにじみ出す様な、悪夢の物凄さを以て、頭の上から人を押しつける、空一杯の怪文字、Kyofuo ……キョーフオー……恐怖王!
「恐怖王、恐怖王」
の囁きが群集の間に湧き起ったかと思うと、まるで狂気の津波の様に、たちまち拡がり高まって、海岸全体の不気味な合唱となった。
「恐怖王だ、恐怖王だ、あいつがあの飛行機に乗っているのだ」
だが千メートルもあろうという、高空の悪魔をどうすることが出来よう。
アレヨ、アレヨと騒ぎ立つ海岸の群集を尻目に、悪魔の飛行機は、自から描いた煙幕文字に隠れて、見る見る機影を縮め、漠々たる水天一髪の彼方に消え去ってしまった。
尾行曲線
飛行機は飛び去っても、彼の残した煙幕文字は、ボヤン、ボヤンと無限に大きく拡がりながら、いつまでも怪しい蜃気楼の様に、大空に漂っていた。
大江蘭堂は、余りにも大がかりな悪魔のプロパガンダに度肝を抜かれたのか、群集が立ち去ったあとまでも、ボンヤリと海岸に佇んでいたが、ふと気がつくと、十間ばかり向うの波打際に、彼を見つめて立止っている、妙な人物を発見した。