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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
夏子未亡人
乞食奴、ふり返って追手を見ると、矢庭に駈け出したが、どうも余り駈けっこはお得意でないらしい。ヨタヨタと妙な恰好で走って行くが、到底のっぽの蘭堂の敵ではない。
「待て、聞きたいことがある」
とうとう、追手の猿臂が乞食の襟髪にかかった。
夏子未亡人
襟髪を掴まれた乞食は騒ぐ様子もなく、ふてぶてしく立止って、ヒョイと振返った。大江の顔と乞食の顔が一尺程の近さで、真正面に向き合った。
海岸の鼠色の大空を背景に、バアと大写しになった乞食の顔。
大江はギョッとして思わず手を離した。長い髪の毛(無論鬘に相違ない)で顔を隠していた為、今の今まで気づかなかったが、この乞食こそ、外ならぬゴリラ男であった。大江はゴリラ男を見知っている訳ではないけれど、その異様な相貌を見ては、それと気づかぬ訳には行かぬ。
お化の様な乱れ髪の鬘の下から、狭い額、ギョロリとした両眼、平べったい鼻、厚い唇、むき出した大きな真白い歯並、彼奴は「どうだ驚いたか」と云わぬばかりに、ゲラゲラ笑っていたのだ。身の毛もよだつ、醜怪千万な笑い顔。
彼はこの顔を見せる為に、態と大江に追いつかせたのだ。そして、例によって「恐怖王」