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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

数分間でこんなにもよく寝込めるものだろうか。

「変ですね、どうかしたんじゃありませんか。そいつの顔色をごらんなさい」

蘭堂が檻を覗き込んで云った。

ただ事ではなかった。ゴリラは死にかけているのだ。何の原因もなく、突然こんな発作が起るものだろうか。

「それにしても、あの黒瀬という人は何をしているのだろう。馬鹿に長いじゃありませんか」

S氏がふとそれに気づいて云った。

二人の胸に殆ど同時に、ある恐ろしい考えがひらめいた。

「オイ、君さっき出て行った黒瀬という人を探してくれ給え、洗面所にいる筈だ。大急ぎで探してくれ給え」

S氏は外の廊下に立っていた一人の警官に命じた。

だが黒瀬の姿は、洗面所は勿論、庁内のどこの隅にも発見されなかった。

一方ゴリラ男の容態を見る為に医員がかけつけ、檻の戸を開いて中へ入って行った。

彼はゴリラの身体を綿密に検べ終って顔を上げた。

「腕に注射針の痕があります」

「毒薬ですか」

捜査課長がびっくりして聞返した。

「エエ、多分……」

医員はある毒薬の名を答えた。

「それで生命は?」

「分りません。至急に手当てをして見ましょう。こんな頑強な男ですから、うまく命をとりとめるかも知れません」