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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

蘭堂は苦笑しないではいられなかった。彼等は同志うちを始めるに極っている。そして、どちらが勝つにしても、世間はいくらか助かるのだ。

そんなことを考えていると、どこからか恐ろしい悲鳴が聞えて来た。「助けて……」という様に聞えたが、云い切ってしまうまでに、何かに圧えつけられた様に、パッタリ途絶えてしまった。

確かに夏子の声であった。どうしたというのだろう。ゴリラ脱走の記事と今の悲鳴との、妙な符合が蘭堂をギョッとさせた。

彼は大急ぎで寝台を飛び降りると、寝間着のまま、部屋を飛び出した。

廊下には二人の女中が青くなって震えていた。聞いて見ると、今の声はどうやら二階の書斎らしいとのことだ。

彼は階段を飛上ってその部屋へ駈けつけた。

ドアは開かぬ。内側から鍵をかけてある様子だ。

聞耳を立てると、部屋の中で、何者かの息遣いがハッハッと聞える。

蘭堂はふと気がついて、ドアの鍵穴に目を当てた。

案の定、そこにゴリラ男がいた。

彼は何故か案の定という気がしたのだ。

病院を逃げ出した彼は、昨夜の内にこの邸へ忍込んでいたものに相違ない。何故彼はここへやって来たのか。

ゴリラはハッハッと息をはずませていた。