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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
「うまく行ったか」
非常に低い囁き声だ。
「うまく行きました。だが、葬式の四時から今まで、人に怪しまれぬ様に、グルグル走り廻っているのは、大抵じゃありませんぜ」
葬儀車の運転手は、運転台を降りながら、まるで泥棒の手下みたいな口を利いた。
「ウフフフフフ、ご苦労ご苦労。で、仏様は確かにのっかっているんだろうね」
「それや大丈夫。奴等、まさか金ピカ自動車が二台も来ようとは知らぬものだから、まんまと思う壺にはまりましたぜ。いまごろは空っぽの偽の棺が、焼場の竈でクスクス燃えてることでしょうよ」
話の様子では、どうやら彼は、葬儀場から、誰かの死骸を盗み出して来たものらしい。本物の葬儀車には空の棺を、こちらへは死骸の入った棺を、何かのトリックでうまくスリ替て、誰にも怪しまれず、ここまで運んで来たのであろう。
「話はあとにして、棺を家の中へ運んでくれ給え。人でも来ると面倒だ」
「オット合点だ。じゃ、手を貸して下さい」
そこで二人の怪人物は、重い寝棺を釣って、門内へ這入って行った。
東京にも、こんな古い建物があるかと思う程、時代のついた荒れ果てた邸である。恐らく旗本かなんかの建てたものであろう。