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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
彼はその夜、「恋人は果して死んだのか、生きているのか」という、悪夢の様な疑惑にとざされて、暗闇の町から町へとさまよい歩いていたが、いつの間にか殆ど無意識の内に、S町の怪屋の門前に出てしまった。
まさか今まで、あの盛装の花嫁御がこの家にいる筈はないと思いながらも、朽ちかかった古めかしい建物が、何とはなく彼をひきつけた。
彼はフラフラと、真暗な門内へ這入って行った。門の扉は一押しで苦もなく開いたのだ。
一歩庭に踏み込むと、闇の中に物の朽ちた匂がして、魔物の住む洞穴へでも入った様な、何とも云えぬ不気味な感じであった。
行手には伸びるがままに、繁茂した樹木の枝が交錯し、それを分けて進むと、たちまちネットリとした蜘蛛の巣が顔にかかって来た。生い茂った雑草は膝を没する程で、靴の底がジメジメと、まるで泥沼でも歩いている様な音を立てた。
彼は、その殆ど触覚ばかりの闇の中で、「アア俺は今恐ろしい夢を見ているんだな」と思った。それ程、空屋の中は暗くて、静かで、現実ばなれがしていた。
ガサガサと木の枝を分けて、庭を折れ曲って行くと、向うの方に映画のスクリーンの様な長方形の白いものが見えた。