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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
彼はいきなりドアを開いて、室内に飛込んだ。
「畜生ッ、貴様まだこんな所にいたんだな」
思わず叫んで、有り合う椅子の背を掴んだ。
ゴリラだ。ゴリラ男が、夏子の上に馬乗りになって、その喉をしめつけている。夏子は、空色のワンピースの裾を破って、夢中にもがきながら抵抗している。
「邪魔するな。お前、あっちへ行ってろ」
賊は猩々の様に真赤になって、恐ろしい目で蘭堂を睨みつけ、途切れ途切れに唸った。
「止せ。止さぬと、叩き殺してくれるぞ」
蘭堂は椅子を振り上げて、ゴリラの頭上から打ちおろす身構えをした。
「早く、早く、こいつを叩きつけて」
夏子が、みだらに顔を歪めて、息も絶え絶えに叫ぶ。
「ウヌ、これでもか」
蘭堂は、振り上げた椅子を、力まかせに叩きつけた。
「ギャッ」
という、けだものの悲鳴。
ゴリラは肩先をやられて、やっと夏子の上から立上ったが、今度は蘭堂に向って、白い大きな歯を噛みならし、恐ろしいうなり声を発しながら、全く大猿の恰好で飛びかかって来た。
けだものと人間とは、一かたまりに組合って、床の上を転げ廻った。蘭堂は少々柔道の心得があったけれど、野獣にかかっては、何の甲斐もなく、一転、二転、三転する内には、遂にゴリラ男の下敷きになってしまった。