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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

蘭堂は喉をさすりながら、ムクムクと起き上った。まだへこたれてはいない。立上るなり大声に怒鳴って駈け出した。

「待て、畜生、今度こそ逃がさぬぞ」

夏子が蘭堂に気をとられている隙に、ゴリラはドアの外へ逃げ出していたのだ。蘭堂はそのあとを追って廊下へ飛出した。

ゴリラは見通しの廊下を、背を丸くして、這う様に走って行く。だが、どう戸まどいしたのか、入口とは反対の方角だ。廊下の突き当りは部屋になっている。ゴリラは、いきなりそのドアを開いて部屋の中に隠れた。間髪を容れず蘭堂も同じドアから飛込む。

それは、来客用の寝室らしく、寝台と小卓と二脚の椅子と、小箪笥の外には何もない至極アッサリした部屋であった。人間の隠れる場所は寝台の下を除いてはどこにもない。窓は内部から締がしてある。しかも、ガラス窓の外には鉄格子が見えている。

それにも拘らず、蘭堂が飛び込んで見ると、そこには人影もなかったのだ。寝台の下を覗いて見たのは云うまでもない。その外箪笥の蔭にも、ドアのうしろにも、どこにもゴリラの姿は見えぬ。不思議だ。怪物は煙の様に消えてなくなったのだ。

そこへ、オズオズ夏子が這入って来た。