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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
だが、扉を開いて一目浴室を見た時、彼はハッと目まいを感じて立ちすくんでしまった。
そこには、ゴチャゴチャと無数の肉塊が蠢いていた。人肉の万華鏡みたいなものが、眼界一杯に、あやしくも美しく開いていたのだ。
余りの怪しさに、ギョッとして、暫くは夢とも現とも判じ兼ねたが、やがて、気を取直してよく見ると、この浴室の不思議な構造が分って来た。
浴室は八角形の鏡の部屋になっていたのだ。境目もなく、厚ガラスの鏡ばかりで、浴槽を八角形にとり囲み、天井までも同じ鏡で出来ている、謂わば巨大な万華鏡であったのだ。恐らくは夏子の亡夫の奇を好む贅沢な思いつきから、入浴の為ばかりではなく、一種の観楽境として建てられたものであろう。
八方の鏡に反射し合って、数十数百の裸女の像を映し、それが身動きをする度毎に、万華鏡を廻した時と同じ様に、種々様々の肉塊の花を咲かせるのだ。
浴槽の中に立上って、悲鳴を上げていた夏子は、蘭堂の顔を見ると、流石に恥らって、急いで身体を湯の中に隠し、首丈け出して、叫ぶのだ。
「先生、これ、これですの。こんな恐ろしいものが、お湯の中にブカブカ浮いていましたの」