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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

令嬢消失

彼は真青になって叫んだ。

「僕はこの腕の主を知っている。非常に親しくしている人です。奥さん、僕はこうしてはいられません。失礼させて頂きます」

蘭堂はそのまま慌しく浴室を飛出そうとした。

「待って、待って下さい。あなたに行かれては、あたし怖くって、迚もこの家にいられませんわ。ちょっと待って、あたしも一緒につれて行って」

夏子は、湯に濡れてツルツルした全裸のまま、恥しさも忘れて青年に追縋り、その腕を掴んだ。

「その方、どなたですの? あなたの親しい女の方って」

「花園伯爵のお嬢さんです。僕はそれを確めて見なければ安心が出来ないのです」

蘭堂は夏子の手をふり放して又一歩ドアに近づいた。

「あなたの恋人? エ、そうなの?」

夏子は、ねばっこい女の力で、蘭堂の肩を持って、グルッと彼女の方へ向き返らせた。そして、顔と、むき出しの五体とで、何とも云えぬ嬌態を示した。蘭堂はそれをマザマザと見た。うら若き女性の余りにも大胆なる肉体的表情をマザマザと見た。そして、恐ろしさに震え上った。

そこには、しびれる様に甘い匂と、ツルツル滑っこい触感と、全身で笑みくずれている巨大なる桃色の花があったのだ。