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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
「ごめんなさい。僕はこうしてはいられないのです。一刻も早く東京に帰って、それを確めて見なければならないのです」
譫言の様に云いながら、蘭堂はキョロキョロとあたりを見廻した。すると、部屋の一方に掛けてある湯上りの大タオルが、救いの神の様に目についた。彼はいきなりそれを掴み取って、パッと拡げ、目の前に咲いているみだらな花を、クルクルと包んでしまった。
「奥さん、では失礼します。書生さんが帰るまで女中さん達を集めて、お話でもしていらっしゃい。それに電話さえかければ、すぐお巡りさんも来てくれます。大丈夫ですよ。大丈夫ですよ」
一言一言あとじさりをして、彼は遂にドアを開いた。そして、夏子のうらみの声をあとにして、アタフタと玄関へ出て行った。夜更けの町を停車場に向って走っていると、都合よく空タクシーが通りかかったので、東京麹町までの値を極めて飛乗った。
闇の大道を飛ばしに飛ばして、麹町の伯爵邸についたのは、もう夜の十一時頃であったが、夜更けを遠慮している場合ではないので、車を降りると、慌しく門の電鈴を押した。
待ち構えてでもいた様に、書生が飛出して来て、応接間に案内した。