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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「オヤ、また袋小路かな。イヤイヤ、そうじゃない。ここに小さな潜り戸がある。開けてお入りくださいと、貼り紙がしてある」

如何にも、黒板塀の上に、ひどく下手な字の貼り紙が見える。

「君、少し凄くなって来たじゃないか。真暗な中で戸を開けて入るというのは、何だか気味の悪いものだね」

「そうですね。一人きりだったら、一寸いやな気持がするかも知れませんね」

しかし、二人はまだ心の中ではクスクス笑っていた。なんてこけおどしな真似をするんだろうと、おかしくて仕方がなかった。

博士を先に、二人は戸を開いて中に入った。だが、そこには別に恐ろしいものがいる訳ではなく、ただ文目もわかぬ闇があるばかりであった。天井も左右の壁も、板を重ねた上に黒布が張ってあるらしく、針の先程の光もささぬ如法暗夜である。目の前に何かムラムラと煙のようなものが動いたり、ネオン・サインのように鮮かな青や赤の環が現われたり消えたりした。造りものの化物などよりは、この網膜のいたずらの方が、却って不気味な程であった。

「こりゃ暗いですね。歩けやしない」

二人は手を壁に当てて、足で地面をさぐりながらあるいて行った。