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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
それは、雪斎和尚であった。
雪斎は尚早論というよりは、もっと消極的に、義元に内治の献策のみすすめた。旗を中原にすすめて、天下統一の大業を義元がなし果そうとする大志に対しては、悪いとはいわないが、決して、賛同を表さなかった。
そういう態度を持している雪斎和尚の気もちの中には、苦しいものがあった。なぜならば、義元に向って弱冠から、
「今川家は当代の名族で在わするぞ。足利将軍の統、もしお世継のなき時は、三河の吉良氏が継ぎ、吉良氏に人のなき時は、御当家今川家から立つことになっておる。すべからく貴方も大志を抱いて、天下の主たるほどの器量を今から養っておかねばならぬ」
と、そういうような訓育をした者は、実に、雪斎自身であったのである。
一城の主たるよりは、一国の君となれ、一国の君たるよりは、十州の太守となれ、十州の太守たるよりは、天下の支配者となれ。
誰も訓えることである。当時の武人教育はそうであり、当時の武家の子弟は皆、風雲の世にそれを望んだ。
雪斎もまた、義元を教育するに、それを眼目とした。そして彼が義元の帷幕に参じてから、今川家の国勢は急激に膨脹した。