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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

露のひぬ間

露のひぬ間

九死に一生を得、殿軍の任を果して帰った将士が、京都に帰りついた第一夜の望みは、

「とにかく寝たい!」

それだけだった。

君前に報告を終って、退って来る途中からもう藤吉郎は、

「寝るのだ寝るのだ」

と、居眠りながら歩いていた。

それが、四月三十日の宵であった。翌る朝、ちょっと眼がさめたが、また寝てしまった。午ごろ揺り起されて、粥を喰べたが、その味もまだ美味いと感じるだけで夢うつつだった。

「また、お寝みですか」

側の者も、呆れ顔した。しかし、さすがに二晩目は、宵のうちに眼がさめて、大欠伸を一つすると、それから体をもて余してしまった。

「おい、幾日か、きょうは?」

そんなことを訊いたりした。

次の間の詰侍が、

「二日でございます」

と、答えると、

「えッ、では明日は三日か」

と、驚いた顔した。

「二日か。ではもう御主君にも、お疲れは癒えたろう。……いや、心の疲れはどうかな?」

独り言をもらしながら起ち上がって、持て余した体を室外へ運んで行った。

皇居を造営し、将軍の新館も信長が建築したものであるが、まだ信長自身は、洛中に館を持っていない。上洛のたびに寺院住居である。