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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

四面楚歌

窯は小さいので、一窯に二個か三個ぐらいしかはいらない。その中には割れもできる。だから、日は経っても、そこに並ぶ茶碗が、目立って増えることもなかった。

また、誰が持って行くとなく、その中の幾つかが、いつのまにか減ってもいた。それを発見すると、福太郎は、

「お気に入ったのかな。あれで茶を召し上がって下さるだろうか」

生きがいと仕事の張りあいを感じるらしく、ひとみにも安心と落着きが少しずつ見えて来たし、彼の手で焼く茶碗の形まで、卑屈なゆがみやいじけた線が見えなくなって、だんだん暢気者らしい恰好に変って来た。

四面楚歌

月の八日ごとに、市がたつ。そのため岐阜の城下は、馬や人や物資で溢れかえる。

まだ信長が城主とならない以前の、斎藤氏時代からの慣わしであった。

紙、漆、皮革、地がね、織もの、そのほか古着、食料など一切の物がかなり大規模に交易される。国々から雑多な人間がはいりこむので、治安や国防上には弊害も眼にあまるほどあるが、織田家にとっても経済上この循環を禁絶するわけにもゆかなかった。

「阿呆ッ。どこ見てあるく。前を見てあるけッ」

夕方にせまった市の雑沓のなかで、博労の気のあらい声がした。