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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
「生憎とこの辺には。……やあ、しかしだいぶ高い」
汗をふいて見まわした。
信長もそこに立った。――立ってふと、附近の谷間や沢を上から見下ろすと、いたるところに、藤吉郎の手勢らしいのが、ふかく木の間にひそんで、万一を厳しく警戒していることが分った。
「お供の衆、各※(二の字点、1-2-22)は、しばらくこれに休んでおられい。これから先は、大勢ではちと工合がわるい」
藤吉郎はそういって、信長とただ二人きりで、南の山鼻のほうへ、数十歩あるいて行った。
そこらはすべて樹木がない。飼糧によさそうな柔らかい穂や芝草がいちめんに山肌をつつんでいる。
萱のあいだに、ちらと戦ぐのを見ると、桔梗の花だった。太刀の帯革に絡むのを見ると、女郎花や葛の花であった。
一歩一歩、ふたりは、無言ですすんだ。海へのぞんでいるように、少しさきは何もなかった。
「殿……。お屈みください」
「こうか」
「なるべく、草の穂に、お身を紛らわせて」
そして、這うが如く、なお断崖のへりまで行くと、眼の下の盆地に、忽然と、鮮らかな城廓が望まれた。
「……小谷の城です」
声を低めて、藤吉郎は、指さした。
信長はうなずいた。