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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
久しい長陣に、雄たけびや、馬のいななきのみ聞いていたせいか、甚だ、快いかぎりでござる。……暫時、ここに独坐をおゆるしください。そのうちに、篤と考えておりますれば」
「どう御思案あろうと、長政様へお会いさせ申すことは勿論、ここより先、御本丸のほうへは、一歩もお通しいたさぬぞ」
――それには答えず、
「……む、ウむ。どうもよい音のするものだな。この釜は」
と、藤吉郎は、炉べりへすこし膝をよせて、しきりと感服しながら、とつこうつ眺めていた。
蘆屋であろうか、古天妙の作であろうか、そんなことは、彼の知識のほかである。彼がふと、おもしろく見たのは、古びた鉄肌に浮いている猿の地紋であった。人間か猿か、甚だあいまいな一個の小動物が、木の枝に四肢をささえて、天地のあいだに、傍若無人なその姿態と愛嬌を示しているのである。
――誰かに似ているぞ。
藤吉郎は、おのずからな微苦笑を禁じ得なかった。松下嘉兵衛のやしきを出て、食も宿もなく、山林を逍遥していた時代の自分が――ふと思い出されてきた。
次の間にでもかくれて様子を窺っているのか、もて余して、戸外へ出てしまったのか、三河守はもうそこにいなかった。