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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

(ありがとう存じます。この後は羽柴筑前守秀吉と名のりまする)

彼にしても、不足のあるはずはない。筑前守に任ぜられたのも、この頃のことである。一躍、大名の列に入り、所領二十二万石。――木下藤吉郎ではそれらしくない。そう信長は思いやって改姓させたものかも知れない。なにしても、秀吉の擡頭は、譜代の宿将とこの秋に肩を並べてしまった。

しかも彼は、小谷の城に甘んじなかった。

(この城は、保守的だ、退いて守るにはいいが、進出には不利な地である。なおなおこの上にも大志をいだく主君に仕えながら、かような所に、殻をかぶってはいられない)

彼は、三里ほど南の湖畔にある今浜こそ、わが住むところと眼をつけた。

岐阜のゆるしを乞うて、すぐ修築にとりかかり、白堊の櫓、堅壁鉄門は、もうこの春、でき上っていたのである。

(出来上ったら、すぐ今浜の地へ、家庭を移そう)

と、秀吉から疾く便りしたので、彼の妻はもとより彼の母も、一日もはやくがよいと待ちわびて、幾たびか手紙で急いていたことが、ようやく、きょうの返辞となって、洲股の留守の家庭にとどいたのであった。

洲股の城はそのまえに、当然、信長へ返上してある。