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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
秀吉の母と妻の寧子とは、廓内の一邸に住んでいたので、旅装もそう暇どらなかった。
数日ののち、今浜から蜂須賀彦右衛門の一行が着いた。迎えの役としてである。老母と寧子は塗駕籠に乗せられた。前後についてゆく将士の装いも平和である。百人にちかい行旅の列には、女人もあり童女もあり、沿道の畑からながめると実にきれいだった。
「岐阜の御城下を通していただくことじゃ。そなたは秀吉の妻として、信長様にお目通りをねがい、日頃の御恩をよくお礼もうし上げねばなるまい」
前もって、母からいわれていることである。寧子はそれがとても重任のここちがして、それのみが苦労になっていた。――岐阜城へあがって信長の前に出たら、身がふるえてなにもいえないのではなかろうかと。
けれど。
その日が来て、母を旅舎にのこし、ひとり種々な土産ものを携えて、いざ、岐阜の殿中へあがってみると、心がすわったというものか、取り越し苦労はわすれていた。
それに、初めて仰いだ主君が、想像のほかで、どんな話も気さくにするし、
「そもじも、筑前の長い留守をあずかり、老母への孝養やら、何かと、骨折りであったろう。いや、それよりも、淋しかったであろう」