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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

で、この喰い違いは、

(事ここに及んでは――)

との当然なる一擲に附し、事態の急に一切を挙げたのだった。

岐阜へも、越前へも、事態の急を早馬しておき、長島の城には、一族の滝川源八、同彦次郎などの兵二千を籠め、自身は日置五郎左、谷崎忠右、小林直八、玉井彦三などの旗本精兵をひっさげて、桑名の城に拠ったのであった。

一面に海を環らし、一面の市外には丘陵を持つ桑名城は、長島よりは守るによく、敵を撃つに利がある。

といって一益も、この狭隘な地区に、徒らな持久を策すのみではなかった。勢州西方の山地から鈴鹿口へかけて、峰、国府、関、亀山などの諸城が散在している。敵の六万余も、その一部は、岐阜方面の抑えに割かねばならず、長島へも幾部隊かを当てるであろう。さらに、以上の諸城へ攻撃を向け、この桑名へも迫ろうとするとなれば、当然、寄手の兵力は分散され、たとえその主力軍たりとも、いうが如き怒潮の勢いをもつわけにはゆかなくなる。

かつは、敵大軍も、数量いかにも物々しくは聞ゆるが、三国、鈴鹿などの尾甲山脈の嶮を越えて来た長途の兵だ。軍需、食糧などの荷駄隊が多くを占めていることも察知するに難くない。