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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

不惑・大惑

「さればよ。何も筑前を相手どって、此方は喧嘩している気もないが、世上の取沙汰は、なかなかそうでないそうな。あははは。匠作も、大迷惑じゃよ。ははは」

人が老成しかけて来ると自然熟練して来る笑い方というものがある。相手とのあいだに直視をぼかす霞が曳かれるのである。

勝家はそこでなおいう。

「喧嘩もせぬ筑前へ、和談の使いもおかしいが、三七信孝様も、また滝川からも、ぜひ此方から使いを立てるようにと、まことに切なる御書状が一再ならず参っておる。――故右府様御他界このかた、半年も経ぬまに、遺臣の輩が、はや相剋内紛しておると聞えては、世上に醜しい。かつは、上杉、北条、毛利などの窺う間隙ともなりはしまいか。こう三七様にも、いたく御心配されておるもののようでの」

「わかりました、そのことは」

利家は、諄く聞く要もないように、元来、口下手な勝家のことばを取って、あっさりひきうけた。

「ひとつ、秀吉に、会いましょう」

不惑・大惑

次の日。又左衛門利家は、使いとして、北ノ庄を発した。

不破彦三勝光に金森五郎八長近のふたりが随行した。こう二者は共に柴田の直臣だ。副使の格であるが、利家にたいする目付たることはいうまでもない。