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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
その日のうち
「途方もなき玄蕃かな。勝家、今日まで、一度も不覚を取らず、敵に総角を見せたこともなきに。……ああ、ぜひもなや」
沈痛な嗟嘆のうちに、宵闇ふかい夜は、彼の苦悶に、あきらめを強いていた。遂に、ふたたび使者は出なかった。
その日のうち
大垣の秀吉の陣所へ、羽柴秀長からの第一報が入ったのは、その日二十日の午の刻(正午)頃であった。
(今暁、佐久間勢八千、間道より中入りを遂げ、大岩砦の瀬兵衛苦戦)
と、早馬をもって告げて来たのである。
木之本から大垣まで十三里、早馬としても、非常なる迅さだったといっていい。
すぐ、第二報が着いた。
(柴田勝家の本軍一万二千もまた時を同じゅうして、全面的にうごき出て、狐塚を中心に、北国街道に沿い、東野山方面へ当てて、布陣凡ならず見えて候う)
時、ちょうど秀吉は、呂久川べりへ出て、増水の勢量を視て帰って来たところだった。
一昨日から昨夜にかけて、美濃方面は豪雨だったとみえ、大垣岐阜間の合渡川も呂久川も氾濫していた。
そのためここでは、作戦に大狂いを生じていたのである。――予定としては、昨十九日、岐阜城へ向って、一挙に総攻撃を開始するところであったのが、豪雨と呂久川の出水に邪げられて、きょうも渡河の見込みなく、一両日、待機となっていた折であった。