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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
と、歎声を発し、果ては、身もだえせぬばかり、玄蕃允の我意を罵っておられる――という帷幕の内紛が洩れるに至って、中軍の士気も何となく鬱々と重く、
「また、お使者が出た」
「や、またも」
と、頻々たる大岩山との往復に、将士までが胸をいためていた。
勝家も、この半日で、寿命をちぢめる思いをしたらしい。五たび目に使者の宿屋七左衛門の帰るのを待っている間などは、床几についていなかった。陣所は狐塚の一寺にあったが、そこの廻廊を、黙々と、めぐり歩いては、山門の方を見て、
「まだか。七左は」
と、幾たび、近衆に訊ねたことか知れない。
「――はや黄昏れるか」
せまる暮色まで、彼をいらだてた。が、日の長いさかりである。鐘楼のあたりにはなお夕陽が残っていた。
「宿屋どのが帰りました」
山門固めの武者が階下まで走って来て告げた。オオと白髪まじりの眉をしかめ、近づく影を見るや、
「七左。どうした?」
と、ひざまずく間も待たず、彼から訊ねた。
七左は、玄蕃允が会わぬというのを強って会って、縷々、お旨を伝えて来ましたが――結局、大垣にある秀吉がこの方面へ駈け向って来るには、ぜひとも、一両日は要し、また迅速に来たところで、長途につかれた兵、これを撃つのは、さして困難とは思われぬ。