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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

馬を拝領したのは、主人から「馬に乗ってもよろしい」と許されたものとしていいのであるが、まだ小姓組の若輩ではあり、馬を持たぬ朋輩のてまえを思って、鞍は据えても乗った例しはない。いつもただ手綱を持って曳き歩きながら、欣しそうにしていたものだった。

しかし、今日こそは、拝領の駿足にものをいわせてみせる時と、終始、秀吉の後を離れずに飛ばしていたが、今はぜひなくそれを捨て、

「やあいっ、又蔵っ。乗り換馬を曳いて来いっ。早く来いっ」

と、頻りに、後から来る郎党を呼びぬいていた。

そういう瞬間にも、騎馬、徒歩の激流は、彼の姿を目にも入れず、疾風をなして駈け抜いてゆく。

虎之助は、気が気ではない。

「おういっ。又蔵っ。六助っ。早く来うっ」

地だんだ踏まぬばかり呶鳴っていた。

その姿へ、日頃顔見知りの谷兵太夫が、あやうく馬首を突ッかけそうにした。

兵太夫は、はっと手綱を抑え、全身の弾みを語気に発して、

「ばかっ。もそっと、道の傍へ退ッ込んでおれっ」

と罵った。虎之助も、負けてはいず、

「真っ直ぐに馬をやれぬほどなら、その馬を、俺にくれてしまえ」

と、云い返した。

「青二才。