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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

にもかかわらず、城内は、依然として静かなままだった。そのうちに寄手の攻め鼓も休み、夜に入って、城中と城外に、使者らしき部将の往来があったりしたので、

(さては、勝家助命の運動か、降伏の使者か)

などの噂も撒かれたが、また、そうでもないらしい城中の空気でもあった。

宵過ぎると、それまで、墨のようであった本丸に、華々と、灯がともり出した。北曲輪にも西の丸にもである。いや、必死の武者ばらが防戦に夜詰している櫓にさえ、狭間狭間にさえ明るい灯が映えている。

「はて?」

寄手は不審がった。

が――まもなくその謎は解かれた。

鼓の音が聞えて来たからである――また笛の音が流れて来たからである。さらに、北国訛りを帯びた郷土の唄まで聞えて来たので、

「おお読めた。城中では、こよいを最後と、あわれ、名残の宴を楽しんでおるものとみゆるわ」

城外の寄手すら、この夜は、多感なるものがあった。

――想い起される永禄の頃。

当時の、織田幕将のひとり柴田権六勝家が、江州長光寺の城に拠って、佐々木承禎の強兵八千の包囲猛攻をうけ、ついにその水の手を断たれても、なお、

(――水は銅盤にたたえて、庭上に捨つるほどあり)