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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

――そして、自身の次女を、利家の次男利政へ嫁がせることを約して、本領安堵というところに落着いた。

こうして、北ノ庄以北のことは、ほとんど戦うことなくして、勝利の余勢で平定したといってよい。

四月二十五日、彼は、富山の城中で、慰労の宴を催した。いよいよ軍を還すためである。その席に、越後の使い、石川播磨守もいた。

石川播磨守は、すでに使節としての公務も終っていたので、越後表に帰ることになっていたが、秀吉に留められて、きょうの宴のために、帰国を一日のばして列席していたものだった。

「あなたのお顔は、戦場で篤と見覚えておるが、それがしをば、お忘れか」

酒、酣となり、座、崩れる頃、又左衛門利家は、彼の前へ寄って、杯を乞うた。

「なかなか」

と、播磨守は、献酬のあいだに打ち笑って、

「――天正九年十月、成願寺の激戦に、立烏帽子の前立に、黒革のよろいを朱にさせ、苦戦の味方を叱咤しておられた片目の大将の指揮振りは、いまもって、眼底にあり、忘れるどころではございませぬ」

と、いった。

利家は、膝を打って、

「さればよ、その折、いつも将棋の駒の旗さし物を見せ、上杉勢のまッ先に出て、味方をなやます強槍の一将こそ、越後の石川播磨なれと聞くからに、慥と、見覚えてお槍先を試みんと窺いおったが、ついに拝面の機もなく、今日、ここでお膝を交える