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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页
霜は真っ白で、すべての影は凍りついて、カーンと耳が聾になってしまいそうな寒気だった。
黒い布をかぶり込んだのは、その形体を隠す目的よりは耳が痛いせいだった。先刻から裏庭の木戸の方にかがみ込んでいた鮎川部屋の者たちは、かじかんだ手に息をかけて、待ち焦れていた。
「どうしたんでしょう、先生」
賛之丞も、手足の指の痛むような冷たさと、時々、何か背すじへぞっと感じてくる度に、風邪をひきそうな心地がしていた。
「不思議だなあ、物音一つして来ない」
「もう、お稲さんが見に行ってからだって大分になりますぜ」
「左様さ……」と、賛之丞は唇をかみしめて、張りつめている態度の裏を、周囲の者にのぞかれまいと努めたが、すこし、不安な様子が顔いろにグラつき出した。
「見て来い、勘八と二、三人で」
「大丈夫ですか」
「だから、あの抜け口を通って、三五兵衛に勘づかれねえように行って来いと申すのだ」
二、三人が、裏庭を大廻りして、お稲の様子を見に行ったが、それからも、しばらく、なんの沙汰がないと思っていると、やがてであった。家の内と外にジーッと鳴りをひそめていた者たちが、一方の方角へ向って、その跫音と総立ちの声を、どっと、暴風のように集めて行った。